炭坑記録画の数々
縁起、迷信、禁忌

死者の搬送
昭和40年4月

 坑内で災害による死者が出ると、その魂魄(こんぱく)は地下に留まり、幽霊となって坑内をさまようと信じていた。よって、屍(しかばね)を炭函に収容すると、同僚知人は(炭函)五、六台に分乗し、ゆるゆると巻き上げる。この際死者の名を呼び、「オーイあがりよるぞ。ここは××片ぞー」と大声で交互におめく。坑口近くになると一応停止して、化粧枠に飾ってある護山神の守り札を取り除ける。坑外にあがったときは、「あがったぞー」と叫んでいた。
 坑内で頬かぶりを嫌うのも、この場合叫び声が聞こえないからである。もっとも、両耳を塞ぐから、(天井の)重圧の前兆も聞こえない。




※××片  曲片(炭層の傾斜する方向と直角で、傾斜のない方向)の数え方で、上部から左右とも一片、二片と数えていく。
※おめく  叫ぶの方言。
※化粧枠  主要坑道本卸の坑口第一番目入口にある枠。外観を特に大きく築いて、鉱名を額面に表示したものもある。

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